小澤研究室

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研究内容 Research

研究室概要

 本研究室では,金属材料を浮遊させた状態で溶かしたり,その状態から結晶成長させたりできる「無容器プロセス」と呼ばれる技術や,雰囲気中の酸素が極めて少ない「極低酸素分圧環境」を駆使し,従来よりも高精度な熱物性測定に関する研究や,これまでに無い新しい機能や特性を持った材料開発の研究を行っている.これらの研究は,国内外の大学,研究所,企業と共同研究で行っており,現在金属材料分野で問題となっている課題の解決や,未知の現象の解明を目的としている.

1.電磁浮遊炉を用いた金属性高温融体の表面張力測定

 半導体シリコンの単結晶成長や,ジェットエンジンのタービン翼に用いられる耐熱合金の精密鋳造,原子炉容器の高信頼性溶接等に代表される高付加価値高温融体プロセスは,流体,熱移動,凝固等の現象が入り組んだ非常に複雑なものである.そこで最近では,コンピュータシミュレーションによる現象解明や,プロセスの最適化が試みられている.正確なシミュレーションを行うためには,パラメータとして使用するための,材料の正確な熱物性値が必要であるが,表面張力に関しては,データは十分に整備されているとは言えない.これは主に以下の理由による.
(1)高温では,試料と測定治具が化学反応するため,測定が非常に困難である
(2)雰囲気中に不純物として存在する酸素(強力な表面活性元素)の影響が考慮されていない

 そこで本研究室では,これらの問題を解決するために,電磁浮遊炉による表面張力測定を行っている.この方法では,電磁力によって試料を浮遊させ,その表面振動数から表面張力を計算出来るため,試料と測定治具との化学反応について考慮する必要が無く,従来よりも高温までの測定が可能となる.また,世界でも殆ど報告されていない,雰囲気酸素分圧の影響を考慮した正確な測定が可能である.これまでに得られた表面張力−温度−雰囲気酸素分圧の関係の例として,図に銀融体の結果を示す.この結果では,酸素吸着によるブーメラン形の表面張力挙動を,高温金属融体において初めて実測することに成功している.


図1 電磁浮遊した高温金属融体

図2 電磁浮遊の原理

図3 銀融体の表面張力−温度−酸素分圧の関係

2. 微小重力環境を利用した高精度熱物性計測

 宇宙の微小重力環境で浮遊する液滴の表面張力は,その表面振動数(Rayleigh振動と呼ばれる単振動)から以下のRayleighの式を用いて計算することが出来る.

 一方,地上で電磁浮遊させた場合は,重力と電磁力の影響によって液滴が卵形に変形し,表面振動数がm=0,±1,±2周波数の5つに分裂するため,その影響についての補正が必要となる.この補正式は理論的に導かれた物であるが,その有効性が実験的にはまだ完全に確認されていない.そこで本研究室では,この補正式の有効性についての検討および,地上実験に対するベンチマークデータの取得を目指して,小型ジェット機によるパラボリック飛行を用いた微小重力環境において,金属融体の表面張力測定を行っている.また,航空機実験で得られる微小重力環境は僅か20秒程度であり,信頼に足る測定を行うためには不十分であることから,国際宇宙ステーションでの表面張力測定実験も計画し,現在その準備を進めているところである.なおこの研究は,JAXA,ESA,DLRをはじめとする国内外の研究機関や大学との共同研究である.


図4 電磁浮遊液滴のm=±0,1,2振動

図5 航空機実験での重力変化プロファイル

図6 実験装置と一緒に航空機に搭乗して実験する.微小重力環境になると,人やペットボトルが宙に浮いている

3. 極低酸素分圧下における新しい材料プロセスと新材料の開発

 金属や合金は,単に溶解凝固させただけでは,必要とする組織や相を得ることができない場合も多い.そこで,組織や結晶構造の改質,調整を行うために,しばしば高温での熱処理が用いられる.また熱処理は,機械加工後の材料や,金属粉末を用いたプレス成形体にも施される.しかし,アルミニウムやクロム,希土類などの易酸化性元素を多く含む材料では,高温の熱処理によって表面が酸化し,逆に材料の欠陥を引き起こす問題がある.
材料の酸化を抑制するための方法として,H2やCOガスを用いた還元雰囲気の利用が考えられるが,これらは危険ガスであることや,材料との化学反応等の問題もあり,実際の工業プロセスでは使用出来ない場合がある.
本研究では,極低酸素分圧環境を得るための手段として,高性能ジルコニア式酸素ポンプの開発および検証を行う.またこの装置を用いた極低酸素分圧環境下で,材料の熱処理や焼結等の加工を行い,新しい材料プロセスと新材料の開発を試みている.


図7 酸素ポンプの原理
安定化ジルコニア管の隔壁に電圧を印加することでガスの酸素分圧を任意に変えることが出来る

4. 無容器プロセスによる過冷却を利用した新しい準安定相の探索

 金属や半導体を浮遊させた状態から溶融凝固すると,容器からの汚染を完全に防ぐことが出来るため,高純度な材料を得ることが出来る.また,凝固時の核生成サイトとなる容器壁が無いため,融点以下でも凝固しない「過冷却」と呼ばれる現象が生じる.合金融体をこの過冷却状態から凝固させると,平衡状態では得られない新しい金属間化合物が準安定相として生成する可能性がある.本研究では,この手法を利用して,これまでに無い新しい磁性材料,半導体,超伝導材料などの探索および開発を行う.


図8 水の過冷却.0℃以下でも凍らず水のままである

図9 過冷凝固させたNd-Fe-B磁石合金のX線回折パターン.過冷凝固により新しい準安定相が発見された